リスキリングを追いかけて「使い捨て人材」にならないように、知っておくべきこと《後編》【大竹稽】
~「どんどん増やす」思考の人間はいずれ破裂する〜
◾️スキルは増やすより減らして磨くもの
私もDXなるものを退けません。キャパシティ内でそれを受け容れていますが、キャッチアップしよう(牛のようになろう)なんて身に過ぎた野望は持ちません。
「吸ったら吐く」なんて当たり前のことを、忘れていませんか? そもそも呼吸は、「吐く」から始まること、覚えていますか? 「吸って吐く」ではなく「吐いて吸う」ことが基本なのです。
スキルもそうです。減らして捨てて、そして磨いていくほうが「自分サイズ」になっていくでしょう。
スキルを、モノとしてイメージしてみましょう。新しいスキルなんて言いがちな間抜けな出版人や教養人たちは、あなたの日常をモノ、つまり計量・交換可能な数字として優劣をつけようとしています。そんな思考の患いには、ジャン・ボードリヤールを処方しましょう(腐ってしまって手の施しようのない思考もあります。そうならないうちにちゃんと頓服しましょうね)。
ボードリヤールは、現代フランスを代表する哲学者です。「無印商品」を立ち上げた堤清二さんは、代表作『消費社会の神話と構造』に影響を受けたと打ち明けています。
この作品から引用してみましょう。
「今日、私たちの周りにはモノの増加によってもたらされた消費と豊かさという余りにも自明な事実が存在しており、人類の生態系に根本的な変化が生じている。すなわち、豊かになった人間たちは、これまでのどの時代にもそうであったように他の人間に取り囲まれているのではなく、モノによって取り巻かれている」
私たちの日常を満たすモノ。その日常に余白はありますか? モノがもたらす豊かさの背景には、果てしなく続く「消費」と「生産」があります。では、私たちは本当に欲しいモノを生産しているでしょうか? 今ある「それ」で充分ではないですか? ただ、他者との「違い」への切望がモノの「生産」「所有」へと駆り立てていませんか? もしそうだとすると、人間がモノを生産し管理しているのではなく、モノが人間を操作しているのです。私たちが働くのは自らの意志ではなく、このような不可視のシステムを維持するために身を粉にして働かされているのです。